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遠野 秋葉 | |
「その人は、死んでなんていません」 「―――え?」 「でも殺されたんです。 ――兄さん、あなた自身の手によって」 秋葉は俺の心を見透かすように強い視線で告げる。 赤い夕日のせいか。 ぐらりと眩暈がして、体のバランスがあやふやになる。 ……幼いころの自分。 暑い、悪夢のように暑い夏の日。 血にまみれた秋葉と少年。 入道雲と、どこまでも鳴り響く蝉の音――― 「―――俺は」 「ほら兄さん。人には、誰だって秘密にしておかなけれ ばならない事があるでしょう?」 どこか愉しそうに微笑って、秋葉は教室を後にする。 ざあ、と流れる長い黒髪が、鯨幕を連想させた。 | |
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